2021.01.14

社長が会社員だった頃


―で、ここからは映画業界の片隅で
貧乏とルサンチマンをこじらせた友野さんが
ゲームの仕事に移っていくわけですね。

友野:
この世界の片隅で みたいに言うんじゃねえよ。
でもまあ、その通りだ。

―昔でいうと、映画の仕事が無くなった映画監督が
しぶしぶテレビの仕事する、みたいな?

友野:
いや、むしろ逆だな。
ゲーム作りなんていう高度なものに
自分が関われる気がしてなかったんだ。

―たしかに。

友野:
たしかに、って何だ?
まあとにかくこれ以上バイトってのも何だから
生まれて初めての就職活動をしてだな、
スクエニとレベルファイブとチュンソフトって会社を受けて。

―何故その3社を?

友野:
シナリオ採用があったからだよ。
ゲームのシステムなんかは完全にわかんなかったけど
シナリオ、ならまだなんとか
共通言語があって、自分にもできることがあるんじゃないかと。

―で、全部落ちたんですね?

友野:
いや、一応全部受かりかけてたはずだよ、多分。

―ええ?
じゃあなんで行かなかったんです?

友野:
チュンソフトさんは「来週から来れます?」みたいな
感じだったんだけど、プライスタグの撮影準備とかもあったもんだから
「来週からはちょっと・・・」って話をして無しに。

スクエニさんは内定もらったんだけど
これもまたプライスタグの撮影が延びて
「入社時期を一か月ずらせますか?」って聞いて
「また受けてください」で終了。

―当然でしょ。
誰が誰にモノ申してんすか。

友野:
レベルファイブさんだけが
「あ、じゃあちょっと社長に聞いてみますね」つって
電話口でタリラリラリラーン、って音楽が鳴ってだな。

―今なら完全に落とされてますよね。

友野:
時代だな。
その時も
「最悪ダメになってもいいですか?」
って枕詞は当然あったぜ。

―でも、なんとか拾ってもらえたと。

友野:
いまなら秒で落ちてるだろうが、まあ、
なんとか。

―で、無事に潜り込んで
シナリオとかを書き始めるんですね。

友野:
そうだな、で、まあ色々あって
イナズマ2が100万本確定したあたりで
「もうできることないな」って思い当たって。

―急にえらく殊勝ですね。

友野:
まあ、100万本ってのは
どう考えても会社のシステムのすごさであって、
個人の力でどうこう、ってのは
流石に俺でも考えにくかったからな。

とはいえ、自分のテキストが
100万人が読んでも一応大丈夫なものらしいって
わかったのは収穫だったけどさ。

―で、殊勝なんだか尊大なんだかわかんない感じで
そのままフリーになっていくわけですね。

友野:
まあ、俺の場合はフリーの期間は無くて
ほぼいきなり会社設立だけどな。

―独立に際して、
すでに何かアテがあったんですか?

友野:
なくはなかったけど
いざ独立しちゃったらあっさり流れちゃって。
結局、何もないところからスタートだったな。

―ベンチャーあるあるですね。

友野:
で、会社設立して、なんとなく給与のイメージも
レベルファイブさんでの経験を引き継いで・・・
お前みたいなやつも、その恩恵に預かってるってのが
現在だな。

―10年前の相場なのか。道理で・・・。

友野:
こんな小さな会社が大手のイメージに引っ張られてることを
少しはありがたがる所じゃないのか、そこは。

―友野さんは知らないでしょうけど
10年前とは違って、今の労働市場は
売り手市場なんですよ。

友野:
それは能力があるやつの話だろ。

―こうやって
みんなが嫌がる社長のおしゃべりに付き合わされてちゃ、
能力の発揮の仕様もありませんよ。

友野:
人の嫌がることをやるのは
尊敬される第一歩だ。がんばれ。

―社長が尊敬されてないこの会社で
そんなこと言われてもな。

友野:
やっぱ減俸だ、お前なんか!

ーはいはい。
じゃ、続きはまた今度ってことで。